芸能プロダクションマネージャーの皆さまへ
本文面は、アクトガレージの演技指導の考え方、方向性などをまとめた記事となります。マネージャーの皆さまに演技に対する取組みを知っていただくことで、マネージメントする際の参考になれば幸いです。
特にこれから芸能プロダクションを立ち上げ、俳優育成や演技レッスンをしていこうとお考えの方に向けた内容となります。
執筆 主宰 中村英児
▶アクトガレージの演技指導における「考え方、方向性、信念」について
アクトガレージは、2009年より東京都杉並区にスタジオを構え、映像演技専門のワークショップとして多くの方に映像分野における演技表現の魅力を伝えてきました。
振り返ってみると、設立当初は受講生の皆と共に、作品を作り上げていくというコンセプトが強く、「教える」というよりは「作品制作」という観点で、「演出」をしながら演技のいろはを指導していました。つまり、受講生の各々が、それぞれの受け止め方で吸収していくというスタイルです。それも一つの指導方法としては成立するやり方だとは思います。ただ、どうしても指導する側の色が濃く、講師の感性に染めるという偏った指導になってしまいがちです。また、曖昧で各々の感性によって受け取る意味合いが異なってきます。そのような観点から、方向性を「基本重視」に変えていきました。基本が確立していない状態で「演出」に応える事が困難だという事に気付いたからです。そこからは試行錯誤の連続でした。そもそも基本とは何か?から追求し、教えることの難しさを改めて思い知らされ、伝える為のワード選択、レクチャーしていく順序などの熟考を重ねました。具体的な基本項目には下記のようなワード(オリジナルを含む)があります。
・演技の三大要素
・表現の二大要素
・順行演技と逆行演技
・自己演出と他己演出
・台詞の距離感覚
・リザルト演出
・スルーライン
・無意識の意識化
(クリティカルシンキング)
など
上記はほんの一部となります。あえてここで上記のワードの意味をお伝えする事はしませんが、台本を使用した実践を交えながら指導する事で、感覚的で掴みどころのない演技表現を、より具体的で確信的に伝える事が可能になります。演技の基本は、曖昧さを回避した土台を形成する事です。演じ手自身が、映像表現において何が求められ、どう演じれば良いのかを腑に落していく作業が必要です。迷いの中で演技をしても説得力のある表現は生み出せません。疑問を解消し、徐々に確信に近づけていく事で、演技のプレゼンテーション能力が磨かれていきます。まず、そこからがスタートになります。
プレゼンテーション能力がなければ、オーディションで台本を渡されて演技をする際に、ただこなして終了を繰り返す事になります。特に新人の時は何も分からない状態でオーディションに臨むこと程、疑問に満ちて辛い事はありません。もちろん、結果がついてきたらそれで良いかもしれませんが、ほとんどの場合、無理でしょう。そこでくじけてしまうような弱いメンタルだと芸能分野ではやっていけないのも事実です。ただ、良くない形で夢を諦めてしまったり、演技の楽しさを知る前に辞めてしまったら才能を潰す事にもなりかねません。
そして、オーディションで良い結果を出せるようになったら、次の段階、撮影現場です。ここでは、台詞のある役付にキャスティングされた場合を前提とします。役付で必要になるのが「演出」に応える能力です。これはプレゼンテーション能力とは大きく異なります。演技が自分発信で出来たとしても、撮影現場では通用しません。演出に応える為には、監督(演出家)がどのような意図でそれを伝えているのかを多角的に知っておく必要があります。ここで言う「多角的」というのは、台本読解・表現形成・キャラクター作り・現場都合などの事です。それを、技術的、論理的に捉え実践できれば、演じ手は良い緊張感の中で挑戦する事が可能になります。技術力が追い付かなくても「知っている」事がメンタルを少しでも保つ為に必要不可欠なのです。
演出の意味を捉える事が出来ず、曖昧な状態は演じる上でとても危険です。メンタル崩壊もありえます。分らないという、曖昧さを事前に解消しておくことが最大のリスク回避となります。
表現はとても曖昧なものです。曖昧なものを曖昧な言葉で伝えてしまうと、受け取る側に混乱が生じます。それが、俳優・女優にとっての迷いとなり、ヒドい場合には自信喪失にも繋がります。そのような事は特に撮影現場では絶対に避けなければなりません。
俳優・女優は特に映像分野においては、様々なスタイルの監督の前で演技をしなければなりません。そして、そこで通用する演技を習得しておかなければなりません。
受講生が何を望んでいるのか?何を知りたいのか?どういった指導を望んでいるのか?各々の個性を伸ばし、それぞれのカタチで才能を開花していく為には、個々の内面を深堀するような指導も時には必要になります。より深く寄り添い、ヒアリングを繰り返し、今、現在の疑問や方向性、メンタルを感じながら指導する事が求められます。指導は押し付けでは通用しません。
正直に申し上げれば、この長い期間の指導で様々な失敗もしてきました。教える側と教えられる側の溝も多く実感してきました。やはりそこにはどうしても乖離が生じる事があります。うまくいかなかった例としては、ある受講生は、自分の考えを押し通す子に育ってしまいました。我が強いと言えば個性として受け入れられるかもしれません。でも作品作りにおいては、自分の考えを基に「演出」に応える能力が絶対的に必要です。それを深く認識させてあげられなかった指導者側の責任は重いと痛感した事例です。
また、別の事例では、演出をすると受講生側が自身の考えを否定されていると感じるようになり、被害妄想が大きくなってコミュニケーションが取れなくなってしまいました。これも、演出の意味・意図を伝えきれなかった事が発端だと感じています。
演技は技術力も当然必要ですが、どういう意図で物事を伝えているのか?圧力や誤解が生じる言葉ではないか?という慎重かつ繊細さが必要になります。もちろん大胆な指導や演出も信頼関係があれば乗り越えられる事もありますが、少し間違えれば、現場がとても悪い状況となり、メンタル崩壊になりかねません。「甘い」と考える方もいるかもしれません。実際に甘いかもしれません。ただ、それが現実なのです。現実がそうであれば、そうならないように仕向けていかなければならないし、事前にリスク回避できる事はしておくに越した事はありません。
どうすれば、個性が存分に発揮でき、伸び伸びと演技を楽しめるより良い環境を提供できるのか?それはプロダクションマネージャーにとって重要で大きな課題なのではないでしょうか?
俳優・女優はアーティストです。
アーティスト=創作者、芸術家です。
どうしても、上記の言葉を軽く捉え、聞き流してしまいがちです。しかしこれはとても重要です。演技に初めて取り組む段階から、創作者である事の意味を理解し、演じ手自らが自身の想像力・発想力で作り上げていくものだという責任感を育んでいかなければなりません。
監督・演出家は「指導者」ではありません。
監督・演出家が行うのは指導ではなく「演出」です。
演出とは「要望」です。「要望」と「指導」は違います。
現場に出たらプロとして扱われます。「プロ」とは、「演出」=「要望」を受け、それを表現として具現化できる能力を持ち合わせた人の事を指します。それが出来なければ現場では通用しません。「要望」を受けることの出来る能力を備えた人が「プロ」なのです。出来なければ「指導」が必要になります。撮影現場では「指導」をしなくても済む子しかキャスティングされません。「指導」は撮影現場やオーディションの前の段階で済ませていなければならないのです。それを担っているのが、芸能プロダクションであり、マネージャーであり、私たち指導者(演技コーチ・講師・トレーナー)なのです。サポート側が以上のような育成を怠れば俳優・女優が実力でキャスティングされる事はとても難しいでしょう。
いつでもいつの時も、俳優が自己演出(プレゼンテーション)する事を止める事の無いよう、演技の基本をしっかりと踏まえた揺るぎない地盤を作る事がとても重要です。その感性を「芝居心」というのです。芝居心というのは時に「センス」という言葉に置き換えられます。マネージャー業をやっているとよく耳にする言葉ではないでしょうか?「あの子センスあるね」とか「センスが足りないね」とか。センスって何?何を見られているのか理解ができず混乱する事も多くあるかと思います。
【センス=生まれ持った才能】ではありません。演技センスは【身に付け、成長させる】ものです。
センスは個々が見出し、育んでいける能力です。指導する事で備わる「技術」なのです。その技術が身に付いていなければオーディションで良い反応を得る事は難しいでしょう。もちろん、個人差があります。吸収が早い子も遅い子もいます。打てば響く子もそうでない子もいます。でも、最初にどういった方向性で指導するかで未来が大きく変わります。
明らかなのは、各々に個性があり、容姿も感性も違い、それぞれに響く言葉も違います。俳優・女優には「個を見て個性を伸ばす」指導が必要です。それぞれの能力を引き出す為の指摘やヒント、アドバイスが必要です。そのような環境を提供し、責任を持って指導する。それがアクトガレージの考えであり、方向性であり、信念です。
芸能分野は大きく変わろうとしています。まさに今が大きな変革期ではないでしょうか?今の若い世代に大きな波が来ていると感じます。日本で、そして世界で通用するような感性が求められ、チャンスが訪れる予感がしてなりません。
▶演技コーチ、演技レッスンをお探しの際はご遠慮なくご連絡ください。
マネージャーと俳優・女優の関係性はとても距離感やバランスが難しく、ビジネスであると共に、様々なサポートが必要になる場面も多いかと思います。そういった中で、特に演技指導やメンタルケアは、外部からのサポートが必要となります。第三者の視点で共に考え、俳優・女優の可能性を広げるお手伝いが出来れば幸いです。
▶芸能プロダクション、マネージャーの皆さまから寄せられる相談
・配役が決まり、実際に使用する台本のコーチングをして欲しい。
・オーディション台本の稽古をつけて欲しい。
・現場経験が乏しいので集中レッスンをして欲しい。
・迷いが払拭できないと悩んでいるのでどうにかして欲しい。
・メンタルコーチングをして欲しい。
・複数人で受けられるレッスンをして欲しい。
など
より具体的な内容での相談が多く、そして、現場が目前に迫っていて時間がないという場合も多々あります。時間の限りを尽くし、その時々の条件下で個々の感性を見ながら、より有意義なレッスンを柔軟にカスタマイズして指導します。
また、マネージャーさまご自身がレッスンを受けてみたいとのご要望もあります。そのようなご要望にももちろん応じています。その際は、個人体験レッスンを受講してください。実際にどのような指導をするのかを体験する事ができます。台詞の練習等の演者視点の内容は省く事も可能です。受講の際にお伝えください。
その他のご要望、ご質問等があればお気軽にご連絡ください。
070-8393-5151(スタジオ直通)
電話は繋がらない時もあります。LINEがとても便利です。